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父と暮せば Comments (20)
木下がくれたお饅頭について真剣に論議する父娘。なんとか二人を結び付けたい一心で、幽霊となってきた。原爆瓦や体内から出てきたガラスの破片。こうした小物だけでも痛さが伝わってくる。美津江が物語を語り継ぐ会に所属していたこともあって、真実をねじまげないで後世に伝えるという信念が戦争体験を語り継ぐことの伏線にもなっている。
被爆者であることを隠し通そうとする人たちがどれだけ多かったことだろう。本来ならば、もっともっと被爆体験記が世に出ていいはずなのに、この主人公と同じように生きることの希望を失った人が多いことは容易に想像できる。亡くなった犠牲者の分まで真摯に生きて、戦争の悲惨さを語り継ぐ。戦争を体験していない者ももっと頑張らねばと考えさせられた。
現代の日本を代表する女優といってもよい宮沢の映画を観るのは、意外なことに初めて。若い頃のイメージで、こちらで勝手に「TVの人」だと決めつけていたことを恥ずかしく思う。自分と同世代の随一の映画女優である。
主演二人の素晴らしい芝居のおかげで、良い舞台を映像で見せてもらえた幸福感を味わえる。
しかしながら、井上ひさしの戯曲を映画にするからには、もっと映像表現で戦争や親子の情愛を語ってもらいたい。無駄にカメラが動くし、やたらと全てを照らそうとする照明も不自然。舞台中継の域を出ていない。
瓦礫に埋もれて動けない父親と、それを見捨てては行けない娘のじゃんけんの場面に、この映画に対する全ての不満を忘れた。
井上ひさし戯曲による舞台は大好きで良く見に行く。
常に【戦争】を庶民の立場から見つめ大いに笑わせながら最後は涙を絞り取られてしまう。
しかしこの原作である戯曲は読んだ時にかなり地味に感じて舞台はパスしてしまっていた。
映画を見終えて先に舞台を見無かった事に対して後悔をしても後の祭だった。
宮沢りえと原田芳雄が殆ど出ずっぱりで、セリフの一言一言が心に突き刺さって来る。
それはまるで血ヘドに塗り固まった塊をこれでもか!とばかりに画面から飛び散って来るのだ!
監督の黒木和雄は前作の『美しい夏キリシマ』が‘静’の戦争批判だとすれば今回は全編二人芝居でも‘動’と言える作品であった。
宮沢りえはこの作品で【菩薩】となった。