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青べか物語 Comments (2)
語り手の「先生」が間借りをするのは堀江の辺りで、そこからの江戸川の眺めが意外にも現在とあまり変わらない。もちろん夢のお城や対岸の工場、妙見島のラブホテルなどはないのだが、すでに河岸はコンクリートで塗り固められ、今とほぼ変わらぬ位置に浦安橋が架かっている。
しかし、現在は暗渠となっている小さな水路が多数あり、そこに夥しいべか船が浮いている風景は現在では完全に失われている。今なら駅前に並ぶ自転車といったところであろう、べか船は当時の住民の生活の足なのだ。
印象的なのは、底に穴の開いた青いべか船を売りつける東野英二郎が、「イカヅチの職人に頼めば修理してくれる」というシーン。雷(イカヅチ)は現在の江戸川区東葛西。今でも都バスの停留所名として残っている地名である。船の修理をわざわざ川向こうの業者に頼むことが、浦安・葛西が一つの生活経済圏であったことを感じさせる。
いま堀江には小さいながらもドックがある。地元に船の修理工場があるはずなのになぜ対岸で修理をするのか。というちょっとした疑問は、「先生」の仮住まい周辺のロケショットによって解消される。この当時は堀江ドックはなかったのだ。
高度成長期に入った東京からほんの10キロほどの河口の漁村で、いま猛烈な勢いの開発が始まろうとしている。ここに生きる人々も、干潟の風景も、海苔や蛤に基づいた経済も、この開発にあっという間にのみ込まれてしまう。後に残るのは、「先生」が具合を悪くして出てきた東京と同じような街である。
このテーマは川島雄三監督の傑作「洲崎パラダイス 赤信号」と共通しており、そのことを示すショットも、始まりと終わりが浦安橋/勝鬨橋であるということと、列をなして橋を通過するダンプで共通している。
この作品の一年後に監督は亡くなっている。この後の大変貌を予見して浦安を映像に残したかのような作品である。