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日の名残り Comments (20)
近くにいるのに親の死を看取れない、信頼し言葉にしないが相思相愛の女性との別れ。アンソニーホプキンスの主人公は、職務に忠実で「私」を殺してしまった。それは仕事への誇りと責任感なのか? 何か見ていていたたまれない歯がゆい思い。 彼女の涙を見て、彼はこの再会ですっきりしたのか、とても気になる。あの涙をみる限り、後悔の念が押し寄せていたのではないか?
理想を追った英国貴族と没落、そして家主交代という時代背景をからめて奥深い作品だった。
堅物?過ぎる執事役がぴったりのホプキンス。政治的な絡みもあるし、口も意思も堅い人じゃないと務まらないのかも?
テキパキ働くケンテンも観ていて清々しい。2人がいたからこそ、だったのだと思う。
衣装、いい。
執事のスタイル、カッコいい。
ヒュー・グラント、クリストファー・リーブのそれぞれの役柄らしいスーツの着こなしに見惚れた。
原作から考えて眠くなりそうで、眠くならない。午前10時の映画祭に名作を教えてもらえたと感謝。
ただでさえ如何なる時も人前で感情を表さないと評されている人物が主人公ですから、本当に注意深く観ていないと、心の機微を見逃してしまいます。
また観れば観るほど、考えれば考えるほど、色々なことに気付かされる内容です。よって感想をまとめるのに苦労する作品でした。
Lord Darlingtonの館に長年勤める執事Stevensの現在と約20年前の回顧録。
要人を招いて小規模の国際会議を開ける豪邸は、現代で言うなら高級ホテルの役割を果たしており、使用人達はさながら住み込みのホテル従業員といった感じ。
ちなみに家長に仕えるbutlerは男性使用人達を、女主人に仕えるhousekeeperは女性使用人達を統括する役職で、butlerとhousekeeperは対等、もしくはbutlerが少し上とのこと。
仕事一筋の執事だった父親を尊敬し、自身も完璧な執事として使用人達を取りまとめるStevens。
“A great butler must be possessed of dignity in keeping with his position.”
執事とは立場相応の品格を携え、英国の秩序と伝統を示すべきであると。
そしてその「品位」を維持するために、英国紳士向けの馬鹿丁寧で回りくどく「気高い」会話に付き合える語彙力を習得しているし、私的感情を極力抑えるべく、親の臨終の際も取り乱さずに職務を優先する。
欠員を出して業務に支障をきたす使用人同士の恋愛結婚はご法度なため、若く美しい女性を意識的に避けている。
そんなStevensのプロ意識を支えるのは、生まれも育ちもそして中身も、自分より「遥かに上であるはずの貴族」に、使用人の誰よりも身近に接してどんな要求にも全身全霊で仕える特権と、それに相応しい品格への自負だったと思います。
しかしドイツに宥和的であった Lord Darlingtonは、戦後国賊とまで呼ばれてしまう。戦前なら仕えていたことが自慢にすらなったであろうに、今では面識がないと嘘を付くStevens。
貴族という名の素人政治家は、所詮温室内で国際情勢を討論しているだけで、欧州の現実も、大多数の国民感情や庶民感覚も理解することはない。また、高貴な主人に非の打ち所のない執事という理想に囚われた使用人は、邸内で起きる不都合や不道徳から目を背け、思想も無ければ現実を知ろうともしない。確かに雇い主の指示を無視すれば職を失いかねませんが、現状分析と思考を放棄してひたすら職務に邁進する姿勢は、アイヒマンにも共通するでしょうか。
結局Lord DarlingtonもStevensも井の中の蛙で、戦争により外界に晒されて初めて自らを省みるのです。
KentonやBenn、Cardinalは、Stevensと腹を割って話そうと試みますが、彼から本音を引き出すのは容易ではありません。模範的執事として生きる内に、感情に蓋をすることに慣れ過ぎた彼は、経験ないほど溢れんばかりの想いが募ってようやく、そのやり場に困るのです。父親を亡くしても、信頼する女性の退職を知っても、瞳の奥に僅かな狼狽が宿るのみで、問われれば疲れていると答えるだけ。人として情緒が病的に鈍化しているように見えて、alexithymia (失感情症)かと思いました。
一方で、Kentonは不安定な社会においても善悪の価値観が揺らがず、自身の内面を厳しく客観視できる、比較的感情表現の豊かな女性でした。
初鑑賞時は、彼女がStevensの一体どこにそう惹かれるのかが理解できませんでした(^_^;)。Stevensの回顧録なので、彼にとって都合良く解釈されているのではないかとすら考えました。人として、女性として、必要とされたい願望が特別強い彼女なら、尚更相手からの反応を重要視して恋愛感情を募らせるものと思ったからです。でも観返してみると、KentonはStevensが好きなのだと言うことがよく分かりました。臆病だから辞められないと聞いて、Stevensが口籠もりながらも、彼女がいかに貴重な人材か伝えるシーンがあります。最初は小馬鹿にされて見返してやろうと反発していましたが、仕事に厳しい上に滅多に褒めない彼が働きぶりを認めてくれている、自分はこの職場に必要とされていると知って、とても嬉しかったでしょう。彼女は結婚よりも仕事に価値を見い出している女性です。KentonがやたらStevensにちょっかいを出し始めるのはこのシーンの後です。
可愛い子は見ないようにしてるんでしょ?と談笑する所があります。あの子のこと可愛いと思う?と聞くのは、その男性の好みを知りたい時です。つまり気になる男性にしかこの手の質問はしません。こんなJKレベルの小ワザを意識して書かれているかは知りませんが(^_^;)、KentonがBennにこういう質問をするとは思えません。
Stevensの方はKentonをどう思っていたかと言うと、Bennの前でうっかり本音が出ています。
“I'd be lost without her.”
その直後、ごく自然に取り繕いますけれども、Bennは気付いたと思います。
Stevens Sr. が倒れてもなお、握って離さなかった掃除道具カゴ。その硬くなった指を引き剥がしたのは息子のStevensでした。失職することを恐れた父親を、まるで仕事から解放する暗示のようでした。そして、Stevensが握りしめていた恋愛小説本をその手から離したのはKentonです。物語の中ではない、現実の恋愛へのきっかけが解き放たれた瞬間でした。しかしStevensは何も行動を起こさず…、その後のKentonは落胆して泣いてばかりに(T_T)。
後半にCardinalが、Lordの過ちを正して救うべきだよね!と息巻いている時、StevensはKentonの結婚のことを同時に考えているように見えます。彼女を(も)誤った判断から救うべきなのだと。でもやはり自分の立場なるものをわきまえてしまいます。。
20年後にKentonとStevensが再会する場所は、ちょっとした大人のデートスポット風に見えるんですよね。地元を知るKentonが場所を指定しているはずですから、孫の誕生を知る前に再会できていたら…と考えずにはいられません。Bennのタイミングには恐れ入ります(^_^;)。
終盤にStevensが茫然と浮かべる大粒の涙が切ないです。Bennと同じか、それ以上に、自分もKentonを必要としていたのに、それを伝えられなかった後悔。彼女の本心を受け止められなかった自責の念。
Kentonも別れ際にまた泣きますが…、こうして再会できたのは2人にとってとても良かったのだなと。
結婚せずに同僚としてずっと一緒に働き続けるのが幸せな2人なのか分かりませんが、4回鑑賞したら、もう品格とか気にしないで、来世ではちゃんと結ばれろ!って思いましたね。
結局、Stevensが唯一心情を思い切り吐き出すのは、ワインボトルを誤って割ってしまった時だけでした。
感情を激しくやり取りする恋愛という行為は、人間の品位を損ねるのか…
確かに、花と蜜蜂と小鳥のようにはいきませんね…(^_^;)。
多くの人は一日のうち夕刻を最も楽しみにしているのだと言うKenton。
旅の途中、Stevensがガス欠で困るシーンの黄昏は、それはそれは見事な情景でした。
父親との最期の会話も夕方でした。
必死で走った人生も、折り返して終わりが見えて来た頃が一番美しいものなのでしょうか。それとも逃した数々の好機への喪失感が、生命と時間の不可逆性を痛感させ、湧いて止まらない愛惜により、余命が一層輝くのでしょうか。
心を無にしようとあらゆる感情や思考の流れを麻痺させながら、意思が全くない訳ではないという、Anthony Hopkinsの虚ろな眼差し加減が絶妙でした。
原作とは異なる箇所が幾つかあり、映画の方が、Stevensの掴み所のない哀愁を一層際立たせている感じがしました。
映像も洗練されており、久々に成熟した作品を観て、ずっしりと響きました。
“..... there are times when I think what a terrible mistake I made with my life.
——- Yes, well I'm sure we all have these thoughts from time to time.”
“...... for great many people, the evening is the best part of the day.”